長野幸浩の日記『We Believe』

思いついたことを気楽に

これで良いのか?

 私が東京で仕事をしていた時、ある製品を開発しなさいという指示があった。まったく会社の業態から考えると筋違いのものであったのだが、業務命令である以上スタートすることとなった。
 その商品は『電動歯ブラシ』であった。当時の電動はブラシは振動型といって、歯ブラシごと、ある角度で往復運動をするものが主流だった。
 開発する製品は、ブラシヘッドに埋め込まれた、ブラシの束が回転する機構だった。先ずはブラシの束を回転させる為に、歯車を造らなくてはならない。10束のブラシをブラシヘッドに組み込むわけなので、当然口の中に入るサイズから考えると、歯車のモジュール(歯車の歯のサイズ)は0.3という、とてつもなく小さなものになる。それを造ってくれる会社を探しまくったのを記憶している。
 実際に、出来上がったものを見るとこんな小さなものを良くぞ造ったと思うできばえだった。それを歯ブラシの植毛をしている会社に持ち込み、歯車に植毛をしてもらった。出来上がったブラシヘッドに、組み込むと、植毛をしたときに歯車の植毛部分がふくれて、うまく回転しない。
 そこで差し込む穴の大きさを調整しながら、組み立て、動いたときは本当に嬉しかったものだ。電動はブラシひとつでも、様々な技術が融合してできている。モーター、バッテリー、充電装置等一つひとつが勉強だった。
 そして、試作品が完成したのは半年後だったように記憶している。自分では自信満々で試してもらうと、担当者から『君はこれでいいと思ってるの』と言われたのだ。ゼロから苦心惨憺して、仕上げたものだったので、こんな反応が返ってくるとは思わなかったのである。
 今から、考えて見ると、電動はブラシに必要な能力に欠けていたのではないかと思う。すなわち、どこまでの性能を求めるかを最初に明確にしておかなかったことが大きな原因だった。目的と手法ということを実体験で学んだ最初の出来事だった。
 目的が示されれば、そこへたどり着く道はいくつかある。しかし、目的が示されなければ、努力は水泡に帰すことになるのである。
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