長野幸浩の日記『We Believe』

思いついたことを気楽に

雪のはなし


 ここ数年、一旦止めていた厳冬期から春の雪山に登る機会が増えた。機会が増えたというより望んで行くようになったという方が正しい。
 真っ白な雪に驚くような真っ青な空のコントラストは、雪山に上る理由としては十分だ。
 場所にもよるが、天候やコンディションが良い日は比較的容易に登る事が出来る。しかし、そこには事故なく登る事が出来たという事実があるだけで、何故登る事が出来たかという理由を知る人は少ない。雪山に臨むときは、相手を知る必要がある。
 昨今教えを乞うている山岳ガイドは、雪の素性を知る事が大切だという。また、長年の経験と知識からどの場所がどのタイミングで危険なのかを理解する事が命を長らえる方法のひとつだとも語る。
 一口に雪と言っても様々な形態を持つ。大きく分ければ四態で『新雪』『ザラメ』『霜ザラメ』『しまり雪』に分かれる。この中で最も注意が必要なのは『霜ザラメ』雪である。
 この霜ザラメ雪は条件によっては1〜2日で形成されることも少なくない典型的な弱層だ。霜ザラメ雪がもっとも発達しやすいのは、
 1.固くしまった雪の上に密度の小さな雪の層がある事
 2.昼間に日射がある事
 3.夜間に放射冷却で雪の表面が冷える事
 この条件が整えば一晩で脆弱な霜ザラメ層が形成される。日射は表面の密度の小さな雪の層を透過して、積雪下部の締まった雪を効率的に暖める。外気温が氷点下でも内部は日射で暖められ内部融雪するのだ。
 晴天の日、太陽が沈むと放射冷却で雪の表面から暖められた熱が積雪内で上空に向かって逃げ、雪面温度は急激に低下する。表層の内部は日中暖められているので、この層の上下では大きな温度差によって熱の対流が発生し、積雪下方の暖かい氷は盛んに蒸発する。
 氷は融けて水にならなくても、温度が高ければ蒸発して水蒸気になるのだ。積雪内の温度差で上方へと移動した水蒸気は、上方で冷やされた冷たい雪粒子の下で凝結して霜の結晶を作る。翌朝には表層積雪下部の全体がもろい霜ざらめ、すなわち弱層に変化するのである。
 この霜ざらめの形成には日射の影響が大きいので南斜面の方が起きやすい。弱層はサンドイッチ状に厚い雪の層に挟まれると弱層表層雪崩の危険性が大きくなる。
 厳冬期から春に移行する時期は十分な注意が必要だ。日中は日射により暖かく、夜間は放射冷却により冷える。そして、大量の積雪があるとそれは典型的な雪崩発生の条件となるのだ。
 朝一番の行動が雪崩にあわない方法と理解している人もいるが、厳冬期と春の狭間では、それは一概に正しいとは言えない。いずれにせよ、経験を積み相手を知る事が安全に長く雪山を楽しむ方法のひとつなのである。
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