長野幸浩の日記『We Believe』

思いついたことを気楽に

敬愛する経営者の死

 『任せて祈る』この言葉は深く私の心に刻まれている。彼が社長として入社して来たのは私が大学を卒業して就職した年の事である。したがって彼と私は大きく歳は違うが同期入社であった。
 その時の会社の経営状態は最悪であり、非常に大きな累積赤字を抱えていた。後で聞いたことだが彼が会社に出向を命じられた時『君が行って一年で再建の目処が立たないのなら解散する』と親会社から公言されていたそうだ。
 彼はその時の心境を著書の『言いたい事ははっきり言え!』でこう綴っている。『年間売り上げ三倍、利益八倍の実績を築き上げた企業から累積赤字五億八千万円の会社へ出向する事は地獄への出向と周りから囁かれていた』
 しかし、彼はそれをバネにし、その企業を不死鳥のように蘇らせた。私は業績不振に喘ぐ企業が、わずか十年で東証一部に上場するまでの道のりを傍で体験させて頂いた。
 そこには大逆転を演出するような特別な戦略が有ったのでは無かったのだと思う。社員との信頼関係を構築し、当たり前のことを当たり前に行える企業に導いたことに他ならないのである。
 彼は平社員の私たちをたまに食事に誘ってくれた。場所は会社の裏にある『サンケイ』と言う小さなスナックだった。そこはお酒も食事も出してくれ、彼の行きつけの店だった。
 そこで私たち若い社員が楽しそうに語るのをニコニコ笑って傍で見ていたことを思い出す。
 彼の訃報は五日程前に聞いた。大げさな事は避けたかったのだろう、密葬というかたちをとられたのも彼らしいと思う。
 彼の著書のエピローグの最後にはこう書かれている。『ビジネスマンの美学と言うとキザである。しかし、私はそれぞれが自分の言いたい事を言う為には、やはり自分の胸に美学というか覚悟をひそかに忍ばせておく必要があると思う。格好をつけても仕方がないとつねづね言っている私だが心の底からそう思う。どうぞ、ご臨終までベストを尽くしてください』
 彼は臨終の間際までベストを尽くしたのだと私は信じたい。
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