豆腐を作れ！

　もう２０年も前の事である。前職で、所属していた部門が生活関連電化製品の開発に乗り出した。その時、数人が担当を命ぜられ私はその一人として着任した。
　１０本の毛先が一本一本回転する電動歯ブラシや、今では珍しくないがセラミックヒーターつき空気清浄機などを手がけた。どれも市場で爆発的に売れることは無かったがその時の経験は今の基になっている。
　究極は豆腐製造機だった。豆腐製造機を作るには豆腐の作り方を知らなくては出来ない。そこで、都内の豆腐店に事情を説明し頼み込んだ。
　問題は豆腐を作る時間だった。最低でも仕込んでから３時間という目標が課せられた。越えなければならない課題は最初に大豆を水に浸す作業だった。一晩水に浸す事で美味しい豆腐になる。これでは３時間という壁を越える事はできない。
　そこで、考えたのは超音波をかけながら水に浸すという方法だった。これが思ったより上手く行ったのだが、結局この製品は陽の目を見る事はなかったのである。
　しかし、何事も出来ないといって諦めれば生み出すものは皆無である。目の前の困難に挑戦し、やり遂げるのがナガノイズムであり、初代が残してくれた哲学なのである。