長野幸浩の日記『We Believe』

思いついたことを気楽に

日本人アフリカで蚊帳を売る

 マラリアは、マラリアを媒介した蚊に刺されることによって人に感染する。世界の人口の約半分の32億人がマラリアのリスクに曝されており、2000年には世界で84万人の死者が出ている。
 2005年のダボス会議で、タンザニアのムカパ大統領が『今日も、この瞬間も、マラリアで亡くなっていく子供たちが存在する。今すぐに助けが必要だ』と訴えたのだ。
 それを聞いた女優のシャロン・ストーンが『1万米ドルを提供するので、オリセットの蚊帳を購入して配布してほしい。他にも賛同する方はいないか』と呼びかけたのだ。
 『オリセットの蚊帳』とはオリセットネットの事をいう。住友化学が開発したオリセットネットは、蚊帳を作るポリエチレンの糸に防虫剤を練り込み、それが徐々に表面に染み出し、5年以上も防虫効果が持続する製品だった。
 一方では、当時アメリカの国際開発庁は、殺虫剤に浸した蚊帳を使って検証実験を始めていた。しかし、その蚊帳は単に殺虫剤に浸しただけで、半年ごとに再処理をしなければならなかった。
 アメリカの国際開発局は、現地人に殺虫剤の再処理を含めた啓もう活動を行っており、住友化学が開発した再処理しなくても良いという製品は、自分たちの進めてきた対策を否定するものだと、圧力をかけてきたのである。
 しかし、住友化学の担当者は、あきらめなかった。これまでのオリセットネットの効果をレポートにまとめ、WHO(世界保健機構)の認定を受けた。
 結果として、WHOは、一度に7万張りのオリセットネットを注文してきた。WHOはさらにオリセットネットの普及拡大を急ぐため、アフリカでの現地生産を希望してきたのだ。
 そして、オリセットネットの技術を無償で提供してくれるよう頼んできたのだ。通常、基幹ビジネスの技術を無償で提供するなど考えも及ばないことだ。
 しかし、当時の米倉社長は、技術料をタダにしてもその分、製品価格が下がり、オリセットネットの販売量が増えれば、殺虫剤の販売だけでも利益は確保できるだろう。なにより、それだけ多くのマラリア患者を減らせ、現地生産によって雇用も生み出せる。
 この大英断の結果、現在ではタンザニアの生産能力は年間3000万張りに達し、そして、最大7000人もの雇用機会を生み出した。オリセットネットやその他の対策の効果もあいまって、マラリアによる死者はかつての100万人から現在では60万人レベルに減少したのである。
 一人の日本人ビジネスマンの想いが、アフリカの多くの子供たちの命を救い、多くの雇用を創出し、住友化学の経営に大きく貢献した。これぞ、三方良しの経営である。
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